BEER’S TALK 2

伝統的なビールの話です。

ビールスタイルの系統樹のはじめには、大抵、「上面発酵」と「下面発酵」がきます。前者 は、その前史として「自然発酵」をもっており、この発酵方法によった現役のビールが、奇跡的 にベルギーに存在します。「ランビック」です。勿論、世界のあちこちに、素朴で日常経験的に 醸されるドメスティックな酒があり、例えば数年前ネパールで飲んだ酒は、お湯を注ぎ足しなが らストロー(懐かしい藁製!)で飲むのですが、そのスタイルは、紀元前4000年頃のシュメー ル人たちの醸造酒「シカル」(このビールの製法は、「ランビック」とかなり共通点がありま す。)を思い起こさせましたし、又、ロシアには「クヴァス」というライ麦パンから醸造される、低アルコールの家庭料理ならぬ家庭醸造ビールがあります。(ちなみにドイツ人はビールを 食物と考えているようで、流動食と呼んだりします。)

さて、「ランビック」ですが、このブラッセル近郊、わずか数キロ平方の土地でのみ醸造可能 なビールは、古い古いホップを使い、天から降り来る野生酵母で発酵させ、その主発酵期間四ヶ 月、貯蔵期間も二年近く等々ビール醸造の常識からは激しく外れるもので、この風土ゆえ、その 熱烈な愛好者(少数だ、と思いますが。)あってこそな訳で、奇跡と呼ばれる所以であります。

数年前、ビールセミナーでお会いしたマイケル・ジャクソン氏(歌わず踊らぬマイケル・ジャク ソン。著名な酒評論家。英国人。)にこの希有なビールの将来を質問しましたが、悲観的でした。

「ランビック」とは対称的に、我が世の春を謳歌しているのが、ラガーと呼ばれるカテゴリー に属する「ピルスナー」です。

たかだか二百数十年の歴史しか持たぬ「上面発酵」の、これ又奇跡的成功は多く喧伝されると ころなので、多くは書きません。ただ、今夏、「ピルス」の故郷、チェコのピルゼン(プルゼニ ュ)のその歴史的醸造所「ピルスナー・ウルケル」での、ビールと歌とレトロなダンス(赤玉風 といえばお判りでしょうか?)はとても面白かったことをご報告するにとどめましょう。

でも、最も驚愕したのは、同じボヘミアのプラハの「ウ・フレーク」で飲んだダーク・ラガーでした。 黄色い旅行ガイドでは評判の悪い、この一四九九年創業の有名な観光名所のビールはコクあって キレは刃のようでした。アロマ・ホップの確かな量感、力強い泡(ヘッド)、マイッタでした。 嗚呼、こんなラガーを創りたい!

「上面発酵」ビールは小麦を添加したヴァイツェン(ドイツでも日本でも大モテ)、エール、 スタウト、ポーター、といったカテゴリーに分岐します。イギリスでのエールの展開、アメリカ における古典エールの復活の話はとても書ききれません。ただ、「スタウト」として再生したア イリッシュ・ポーター、そうです、「ギネス」が、私は好きです。大々規模な製造設備で醸造さ れるビールでは、これ唯一、とさえ思うのですが。

さて、ドイツの「上面発酵」ビールは小麦ビールの他に「ケルシュ」と「アルト」がありま す。この隣接し、何かにつけて競争する二都市、ケルンとデュッセルドルフでそれぞれ醸される ビールは、もう秋田でも飲むことができます。現地で云えば、「ケルシュ」は「ジオン亭」、「アルト」は「鍵印」が私のお奨めです。

次回は、欧米編の残りと、日本でのビールのお話です。

((株)あくら代表。日本JCBA/米AHA/米IBS会員。JCBA/シイベル醸造科学技術 研究所認定マスター・イヴァリュエイター。)

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